この腕時計をケース越しに目にしたとき、まず目が行くのが文字盤です。
反射を抑えたマットな表面に施された精緻なギヨシェ彫り。クルドパリやパヴェドパリなど多種のモチーフがありますが、いずれも熟練した職人による手彫りです。
もうちょと目を近づけましょう。と言っても、知らず知らずのうちに時計の魅力があなたの上体を折り曲げるでしょうが。
文字盤の上に置かれた、やや青みを帯びた針。ブレゲ針とわざわざメーカーの名前が付いています。針のやや丈夫に丸い部分を作り、その中心を少し上端にずらして穴が開けられています。
まるで月をイメージしたようです。1783年頃考案されて人気を博し、現在まで200年以上使用されているものです。
ほっそりとして見やすいアラビア数字も創立者自身によるデザインです。
思い切ってケースから出してもらいましょう。文字盤の上にはシークレットサインがあるそうですが、見えますか?あまりに成功を収めた結果、偽造品が数多く出回りました。その対抗策として1795年頃からこれを刻んで本物の証としたんですね。
なかなか見えない、と言う所がオーナーのプライドをより満足させそうです。何といっても顧客は歴史上の有名人や王侯貴族ですから。ルイ16世、殊に王妃マリーアントワネットのために作られた懐中時計は超複雑な仕組みだったそうです。フランス革命後もナポレオンやヨーロッパ中の王侯貴族に熱烈に支持されました。
フランス革命後パリの混乱を逃れてスイスに避難しますが、その間にもヒゲぜんまいなどの画期的装置を発明しています。
ケース側面にフルート模様のコインエッジがあります。この縦縞模様も手作業でなされています。
ブレゲは贅を尽くしたケースを作り出しただけではありません。自動巻きや衝撃吸収装置を発明した優秀な時計職人でもありました。彼の存在は時計の発展を2世紀分早めたと言われています。
値札の数字はそれに見合う作り手の自信とプライドです。